過大な手数料等通達(令和7年6月20日改正)に関する考察 ヒーロー画像

過大な手数料等通達(令和7年6月20日改正)
に関する考察

― 「率の規制」から「額の規制」へ ―

貸切バス事業者と旅行業者等との取引における手数料規制の転換点

貸切バス 2026年9月16日

過大な手数料等通達(令和7年6月20日改正)に関する考察

一般貸切旅客自動車運送事業における旅行業者等との過大な手数料等の取引に関する道路運送法の取扱いを定めた通達(平成31年3月29日 国自旅第307号、令和元年7月9日 国自旅第61号、令和7年6月20日 国自旅第52号による改正)は、条文の字句整理にとどまらず、割戻し該当性の判定方式そのものを入れ替える改正でした。本記事では、この改正の内容と国土交通省の意図、実務上の含意を整理します。

この記事を書いた背景

貸切バス事業者が旅行業者等に支払う手数料が過大となり、運賃・料金に含まれる安全コストを侵食していないかを判定する仕組みは、これまで「事業者の原価構造から導いた安全コスト比率」と「個別運送の手数料率」という率同士の比較によっていました。しかし率の比較では、いくら率を算出しても、その運送で実際にいくらの安全コストが確保されたのかは直接には見えません。

令和7年6月20日改正では、同日付で発出された原価報告通達(国自旅第53号)と一体で、判定の物差しを「率の比較」から「額の比較」へ、基準値を「届出運賃の下限額」から「その事業者自身の届出安全コスト額」へと移行させました。事業者から原価報告書の提出を受けることで、行政側が各社の届出運賃に含まれる安全コスト額を実額で把握できるようになり、個別の運送ごとに「契約運賃-手数料等」と突き合わせる運用が初めて可能になっています。本記事は、この改正点と国土交通省の意図、実務上の対応点を整理することを目的としています。

原価報告書の様式と、安全確保経費(安全コスト)額の算出式を示す国土交通省北海道運輸局の説明資料
原価報告書の様式(左)と、そこから算出される安全確保経費(安全コスト)額の計算式(右)。国土交通省北海道運輸局「一般貸切旅客自動車運送事業者の原価報告書について」(令和7年12月15日)より。

改正の全体像

今回の改正の中心は、次の一点に集約されます。

判定の物差しが「率の比較」から「額の比較」へ、基準値が「届出運賃の下限額」から「その事業者自身の届出安全コスト額」へ移行した。
下限運賃9万円・契約運賃10万円の運送を例に、率の比較から額の比較への判定方式の転換を示す国土交通省北海道運輸局の説明資料
原価に占める安全コストの割合が80%の事業者における、下限運賃9万円・契約運賃10万円の運送を例にした判定例。国土交通省北海道運輸局「一般貸切旅客自動車運送事業者の原価報告書について」(令和7年12月15日)より。

この転換を成立させているのが、原価報告通達(令和7年6月20日 国自旅第53号)です。手数料規制の実効性を担保するための、制度的な土台の整備と位置づけられます。

改正点の整理

項目 改正前 改正後 性質
旅行業者等の範囲 旅行業者・旅行業者代理業者・旅行サービス手配業者 同左(いずれも旅行業法に基づく登録の有無を問わない) 射程拡大
割戻しの判定方法 直近実績事業年度の原価を算定し、原価合計額に占める安全コストの割合を、個別運送の運賃・料金に占める手数料等の率が割り込むか 原価報告通達により報告された届出安全コスト額を基に、個別運送の時間・距離に応じた「一運送に必要な安全コスト額」を算定し、契約運賃-手数料等がこれを下回るか 方式転換
安全コスト額の適用期間 規定なし 原価報告通達の提出期限最終日の翌日から次事業年度の提出期限最終日までの運送引受け 新設
判定基準となる金額 届け出た運賃の下限額 一運送に必要な安全コスト額 基準の置換
用語 運賃の割戻しの審査対象とする 運賃の割戻しの対象とする 表現の強化
実費に対する手数料 運賃・料金の手数料等と合算し、届出運賃の下限額を実質的に下回る場合に割戻しの審査対象 道路運送法第9条の2第1項の運賃料金変更事前届出違反に該当する 厳格化・別枠処理
名目上手数料以外の取扱い 観光部局における調査により個別に総合的に判断 同左(旅行業法に基づく登録を受けている場合に限る、を追加) 限定の明示
月単位・年単位の手数料 期間全体の原価に占める安全コストの割合と手数料率を比較 期間内の各運送について安全コスト額を算定・合算し、運送収入全体から手数料等を差し引いた額と比較 額ベースへ統一
情報の共有 規定なし 一般貸切旅客自動車運送適正化機関に対し、届出安全コスト額を共有する 新設
発出者・通知先 自動車局旅客課長/観光庁参事官(旅行振興) 物流・自動車局旅客課長/観光庁観光産業課長 組織改編に伴う整理

国土交通省の意図の考察

「率の規制」から「額の規制」へ

改正後は、届出安全コスト額という具体的な金額を起点に、当該運行に必要な安全コスト額を算出し、契約運賃から手数料等を差し引いた残額がこれを下回るかどうかを見ます。ここでは率は登場しません。「手数料率30%は高すぎるか」という問い自体が成り立たなくなり、十分な契約運賃を収受していれば同じ30%でも問題は生じず、逆に低い契約運賃であれば10%台の手数料でも割戻しに該当し得ます。率の商慣行ではなく、個々の取引の実額で判断するという姿勢が明確に打ち出されています。

自ら届け出た安全コストによる自己拘束

基準値が「届出運賃の下限額」という全事業者共通の外部基準から、「自社の届出安全コスト額」という事業者自身が申告した数値へ置き換わりました。自分が申告した安全コストは自分で守れという構造であり、行政が一律の水準を押しつけるのではなく、事業者ごとの申告値を規範化する方式に変わっています。安全コストを厚めに申告すれば規制上の閾値が上がり、薄く申告すれば閾値は下がるものの届出運賃の妥当性そのものに影響するため、原価報告書の作成は単なる報告実務から規制上の自己設定行為へと意味を変えたと言えます。

各事業者の安全コスト額は不正競争防止法上の営業秘密として公表されず、取引先とも共有できない旨を説明する国土交通省北海道運輸局のQ&A資料
各社の安全コスト額は不正競争防止法上の「営業秘密」に当たり、公表も取引先との共有もできない旨を確認するQ&A。国土交通省北海道運輸局「一般貸切旅客自動車運送事業者の原価報告書について」(令和7年12月15日)より。

「審査対象」から「対象」への表現変化

改正前の「割戻しの審査対象とする」という表現が、改正後は一律に「割戻しの対象とする」となりました。判定式が客観的な実額比較になったことで裁量的な審査を挟む必要がなくなったという整理であり、当てはめれば結論が出る規範へと性格を変えたことの表れです。執行の予見可能性が高まる一方、事業者側の弁明の余地は狭まります。

実費に対する手数料を割戻しの枠組みから切り離した

駐車場代、有料道路代、昼食代、ガイド料などの立替実費に対して手数料を支払っている場合、改正前は運賃・料金に係る手数料等と合算したうえで届出運賃の下限額を実質的に下回るかを見る扱いでしたが、改正後はこの合算判定を経ることなく、道路運送法第9条の2第1項の運賃料金変更事前届出違反に該当すると断定されました。実費は旅客が全額を負担するものであって運賃・料金ではない以上、そこに手数料を支払えばその原資は運賃から出ていることになり、届け出た運賃を収受していないことになる、という理屈です。実費部分を含めた総額に対して一律の手数料率を乗じる取引慣行が残っている場合、その慣行自体が違反を構成する明白な厳格化です。

無登録業者への射程拡大と調査主体の限界の明示

「いずれも旅行業法に基づく登録の有無を問わない」という括弧書きの追加により、無登録で手配行為を行う者への支払いも通達の対象に取り込まれました。一方、名目上手数料以外の取扱いには「旅行業法に基づく登録を受けている場合に限る」という限定が加えられています。観光部局の監督権限は登録業者にしか及ばないため、範囲を拡大した結果として生じる調査主体の限界をあえて条文上明示したものと読め、無登録業者への支払いについては観光部局の調査を待たずに運輸部局側が判断する構造になります。

適正化機関との情報共有 ― 執行の前線化

新設された情報共有規定により、届出安全コスト額が一般貸切旅客自動車運送適正化機関に共有されます。これまで手数料の問題は監査や特別な調査の場面で扱われるものでしたが、適正化機関が各社の安全コスト額を持てば、巡回指導の現場で運送引受書と契約運賃を突き合わせて確認することが可能になります。年に一度あるかないかの監査から、定期的に接触する巡回指導へと、チェックの舞台が前線化したことを意味します。

実務上の含意

貸切バス事業者

  • 手数料の可否判断は、率ではなく運行ごとの実額計算になります。契約運賃、手数料等の額、当該運行の時間・キロから算出される安全コスト額の三つを揃えて初めて判断できます。
  • 実費への手数料は、金額の多寡にかかわらず届出違反です。旅行業者等との基本契約に、実費を含む総額へ手数料率を乗じる条項が残っていないかが実務上の確認点になります。
  • 月単位・年単位の手数料、成果報酬型手数料(オーバーライドコミッション)は、期間内の全運送について安全コスト額を積み上げ、運送収入全体から手数料等を差し引いた額と比較します。期末になって初めて割れていることが判明する構造であるため、期中の累積管理が必要になります。
  • 適用する届出安全コスト額の期間は、原価報告書の提出期限を基準に区切られます。年度をまたぐ長期契約では、どの時点の安全コスト額が適用されるかが引受日で決まります。

旅行業者等との関係

  • 通達は貸切バス事業者側の道路運送法上の取扱いを定めるものですが、判定に用いる安全コスト額は事業者ごとに異なります。同一の手数料率であっても、A社では適法、B社では割戻し該当ということが起こり得ます。一律の手数料率を前提とした取引条件の設定自体が制度と噛み合わなくなっていると言えます。
  • 運送引受書への手数料等の記載と、基本契約書の保存の重要性は改正後も変わりません。むしろ実額判定になったことで、記載された手数料額が判定の直接の入力値となります。

まとめ

令和7年6月20日改正は、原価報告書制度と一体で、①各社の届出安全コスト額という具体的な基準値の取得、②契約運賃から手数料等を控除した額が、一運送に必要な安全コスト額を下回るか否かという当てはめ可能な判定式の確立、③適正化機関との共有による日常的な確認体制の構築、という三点を整えたものと評価できます。

国土交通省のスタンスは、「手数料率が高いこと自体を問題視する」立場から、「手数料をいくら払おうと、結果として安全コストを侵食してはならない」という結果基準の立場へと明確化されました。その反面、実費に対する手数料については割戻しの判定を経ずに届出違反と断定する構成に改められており、この一点に限っては結果基準ではなく行為そのものの禁止に踏み込んでいます。

出典:一般貸切旅客自動車運送事業における旅行業者等との過大な手数料等の取引に関する道路運送法の取扱いについて(平成31年3月29日 国自旅第307号、令和元年7月9日 国自旅第61号、令和7年6月20日 国自旅第52号)および同新旧対照表
関連通達:原価報告通達(令和7年6月20日 国自旅第53号)
(注)本通達はその後、令和8年5月29日付 国自旅第38号の3により一部改正されています。

各地方運輸局の関連ページ:
貸切バスの運賃・料金制度について(九州運輸局)
貸切運賃関係(近畿運輸局)
貸切バスの新運賃・料金制度について(中部運輸局)
貸切バスの制度について(北陸信越運輸局)
一般貸切旅客自動車運送事業者の原価報告書について(北海道運輸局)