整備管理者制度
自動車の安全運行と環境保全を図るために設けられた整備管理者制度について、その制度の趣旨、業務内容、選任要件、資格要件などを詳しく解説します。本制度は自動車運送事業の適切な運営に不可欠な制度です。
整備管理者制度の趣旨と意義
整備管理者制度は、自動車の使用者が道路運送車両法に基づき、その使用する自動車の点検・整備及び車庫の管理について、安全確保と環境保全を図ることを目的として設けられた制度です。
特に、多数の自動車を使用する事業者や大型バスなどの構造が特殊な自動車を使用する場合には、専門的知識をもって車両管理を行う必要があることから、整備管理者を選任させることにより、点検・整備に関する管理・責任体制を確立しています。
制度が必要とされる背景
- 使用自動車が多い場合の管理体制の整備
- 大型バスなど特殊な車両の専門的管理
- 点検整備の適切な実施確保
- 交通事故の防止と安全運行の確保
- 環境汚染の防止
重要なポイント
整備管理者は単なる形式的な役職ではなく、実質的に点検整備を管理する職務です。使用者の利益追求よりも安全確保・環境保全を優先する独立した権限と責任を持つ必要があります。
整備管理者の業務内容
道路運送車両法第50条及び施行規則第32条において、整備管理者が行うべき業務が詳細に規定されています。以下は、整備管理者に求められる主要な業務です。
主要な業務内容
1. 日常点検の実施方法確定と実施
日常点検の実施方法を定め、自ら実施又は運転者等に実施させる責任があります。点検実施結果を記録し、点検簿で管理することが重要です。
2. 運行可否の決定
日常点検の実施結果に基づき、自動車の運行の可否を決定します。これは安全運行を確保するための最も重要な業務です。不合格部分がある場合は、整備されるまで運行を認めてはなりません。
3. 定期点検の実施方法確定と実施
定期点検の実施方法を定め、自ら実施又は整備工場等に実施させます。実施計画の策定と進行管理が求められます。
4. 随時必要な点検の実施
日常点検や定期点検以外に、異常が認識された場合や必要に応じて随時点検を実施し、適切な整備を行います。
5. 必要な整備の実施
点検結果から判断して必要な整備を実施又は整備工場等に実施させます。整備の計画立案と完了確認が重要です。
6. 点検整備記録簿の管理
定期点検整備実施計画を記録し、営業所にて保存します。点検整備記録簿の写しや電子的記録も営業所に保存することが求められます。
7. 自動車車庫の管理
自動車の駐車場所の適切な管理を行います。車庫の状態が点検整備に支障を来さないようにすることが重要です。
8. 運転者・整備要員の指導監督
業務を処理するため、運転者及び整備要員を指導監督する権限を持ちます。これらの職員への教育と指示が重要です。
整備管理者の位置づけ
整備管理者は、使用者に代わり点検・整備を励行させる監督者であり、使用者に対して安全確保・環境保全の観点から進言する第三者的性格を持ちます。この性格を活かすことが、自動車の安全性を確保するうえで重要な意義を持ちます。
選任要件の概要
整備管理者の選任を要する自動車は、保守管理について特段の専門的知識を必要とする車種に限定されています。使用者の負担軽減を図るため、平成15年4月の改正により要件が緩和されました。
選任を要する自動車
- 事業用大型バス:1台以上
- 事業用中型バス:2台以上
- 事業用大型トラック:5台以上
- 自家用マイクロバス:2台以上
- 二輪自動車:50台以上
選任を要しない場合
以下の場合は、たとえ多くの自動車を使用していても選任の必要がありません:
- 自家用乗用車のみを使用する場合
- 事業用トラックが4台以下の場合
- 自家用マイクロバスが1台のみの場合
資格要件
整備管理者として選任される者が備えなければならない資格要件は、技術能力から管理能力へその比重を移す改正が行われました。
資格要件の種類
第1号:実務経験による資格
- 点検・整備の実務経験:2年以上
- 又は整備管理に関する実務経験:2年以上
- かつ選任前研修を修了していること
第2号:自動車整備士による資格
- 一級自動車整備士の合格者
- 二級自動車整備士の合格者
- 整備士は選任前研修の修了が不要です
実務経験の解釈
「点検又は整備に関する実務経験」とは、以下を指します:
- 整備工場での整備要員としての経験
- 運送事業者の整備実施担当者としての経験
- 技術的指導監督の経験を含む
「整備管理に関する実務経験」とは、以下を指します:
- 整備管理者としての経験
- 整備管理者補助者としての経験
- 整備責任者としての経験
重要な注意
実務経験は「整備の管理を行おうとする自動車と同種類の自動車」に限定されます。例えば、二輪自動車の整備経験のみでは、四輪自動車の整備管理者になることはできません。
整備管理規程
整備管理者の業務内容、地位等を明示することにより自主的な車両管理体制を確立させるため、整備管理者は「整備管理規程」の策定が義務付けられています。
整備管理規程に必要な記載事項
1. 整備管理者の業務内容
規則第32条第1項各号に掲げる業務を具体的に明記
2. 整備管理者に付与される権限
整備管理者が使用者から与えられた権限を明記
3. 整備管理者の地位
組織内における整備管理者の職位と責任
4. 業務執行基準
業務を遂行するにあたっての標準や基準
5. 補助者に関する事項
補助者を置く場合の補助者の資格と業務範囲
整備管理規程の作成上の注意点
- 可能な限り具体的に記述すること。形式的な記載で足りません
- 実際の業務に即した内容であることが必要です
- 違反した場合は整備管理者の解任命令対象になります
選任届と報告義務
整備管理者を選任したときは、所定の期間内に運輸支局に届出を行う必要があります。また、定期的な報告や記録保管の義務があります。
選任届に必要な書類
- 資格要件を満たしていることを証明する書面
- 整備管理規程
- 被選任者の同意書
- 過去期間に解任命令を受けていないことを証明する書面
- 外部委託の場合は委託契約書等
主な報告義務
定期点検実施計画の報告
定期点検実施の年月日等の情報とともに記載し、営業所において保存すること。
日常点検実施結果の記録保管
日常点検を実施した際には、その結果を記録したうえで整備管理者に報告し、その記録の保存・管理に努めることが求められます。
点検整備記録簿の管理
点検整備記録簿の写しまたは電子的記録をの営業所において保存すること。
違反時の罰則
選任届出の届出期限及び内容に虚偽がある場合は、道路運送車両法第110条第1項第3号に基づき、20万円以下の罰金が課される可能性があります。
悪質な虚偽申請の場合は、法第110条に基づく告発が厳正に行われます。
解任命令と使用者の義務
整備管理者が法令に違反した場合、運輸局長は解任を命ずることができます。また、使用者も整備管理者に相当する注意と監督を尽くす義務を負っています。
解任命令の対象となる主な違反
1. 整備不良に起因する事故
日常点検や定期点検が適切に行われていなかった場合
2. 業務の不適切な実施
日常点検の方法の未設定や運行可否の未決定など
3. 不正改造行為
自ら不正改造を行い又は指示・容認した場合
4. 資格要件の虚偽
選任時に資格要件を満たしていなかった場合
5. 著しく不適切な業務遂行
運行可否決定の放置や1年以上の定期点検未実施など
使用者の義務と責任
- 整備管理者に必要な権限を付与する義務
- 整備管理者の業務を適切に行える体制を整備する義務
- 定期的に整備管理者から報告を受ける義務
- 必要に応じて指導・監督を行う義務
まとめ
整備管理者制度は、自動車の安全運行と環境保全を図るための重要な制度です。整備管理者は単なる形式的な役職ではなく、実質的に車両の点検整備を管理し、使用者の利益追求よりも安全確保を優先する義務を担う職務です。
整備管理者に求められる業務は多岐にわたり、日常点検の実施・確認から定期点検の計画立案、記録管理、運転者・整備要員の指導監督まで、多くの責任を伴うものです。これらの業務を適切に遂行するためには、十分な権限と資格が必要であり、整備管理規程により職務が明確化される必要があります。
使用者も整備管理者に任せきりにするのではなく、定期的に報告を受け、相当の注意と監督を尽くす義務があります。整備管理者制度を有効に機能させることは、交通事故防止、環境保全、そして事業の持続可能性を実現するための基本となるものです。