貸切バス

運行管理者の業務

貸切バス事業を安全に運営するうえで、運行管理者は極めて重要な役割を担っています。本記事では、運輸規則第48条で定められた運行管理者の業務について、その詳細と実務上のポイントを解説します。

運行管理者とは

運行管理者は、旅客自動車運送事業における安全運行の責任者です。貸切バス事業では、乗務員の勤務条件や安全管理に関する重要な判断を行い、事業全体の安全運行を支える重要な職位です。

運行管理者の責務は、単なる形式的な役割ではなく、実務上の判断を伴う重い責任を持つ職務です。法令遵守と安全意識が求められ、違反や不備がある場合は、事業者だけでなく運行管理者本人も行政処分の対象となる可能性があります。

重要なポイント

運行管理者は法的責任を伴う職務です。業務を怠ったり不適切に行った場合、事業者と連帯して法的責任を問われることもあります。

運行管理者の位置づけ

  • 事業者の指示を受けて安全管理を実行
  • 乗務員の勤務条件や労働時間の管理責任
  • 安全管理体制の構築と維持
  • 必要な報告や届出を行う義務

運行管理者の主要な業務

旅客自動車運送事業運輸規則第48条では、運行管理者が行うべき業務が詳細に規定されています。以下が主要な業務内容です。

1. 乗務員の勤務割の作成と確認

乗務員の勤務時間が労働基準法およびバス業界の基準を遵守しているかを確認し、適切な勤務割を作成する業務です。過労状態での運転を防ぎ、安全運行を確保する基本的で重要な業務です。

2. 乗務員の指導・監督

乗務員に対して安全運転や法令遵守に関する指導を行います。定期的な安全教育、安全運転への啓発、事故防止のための指導が含まれます。

3. 乗務員の適性診断と健康管理

乗務員の健康状態、運転適性、疲労度などを把握し、安全運転できる状態であることを確認します。特に、高齢ドライバーや健康状態に不安がある乗務員について、より細やかな管理が必要です。

4. 運行指示書の作成と確認

各運行に対して、安全・確実な運行を実現するための運行指示書を作成します。運転経路、休息地点、危険箇所の周知など、安全のための具体的な指示を記載します。

実務上のポイント

運行指示書は法定書類です。不備があると運輸局からの指摘対象となります。標準化されたテンプレートを使用し、漏れなく記載することが重要です。

5. 異常内容の報告

交通事故、法令違反、安全管理体制の欠陥など、異常が発生した場合は速やかに報告する義務があります。報告漏れや隠蔽は重大な法令違反となります。

6. 貨物の積載状況等の確認

貨物を運ぶ場合、積載の安全性、均衡、法定積載量の遵守を確認します。不適切な積載は安全運行に大きく影響するため、厳格な確認が必要です。

安全管理・報告義務

運行管理者には、単に日々の業務を行うだけでなく、定期的な報告や記録保管の義務が課されています。

定期的な報告

  • 日報:毎日の運行状況、事故やトラブルの有無を記録
  • 月報:月単位での安全管理状況、指導実績をまとめる
  • 年報:年間の安全管理状況、改善実績を報告

記録の保管

乗務員の勤務表、運行指示書、事故報告書など、重要な書類は一定期間保管する義務があります。運輸局の監査時に提示を求められることがあります。

事故報告の手順

1. 即時報告

人身事故や重大事故が発生した場合は、直ちに事業者と運輸支局に報告します。連絡遅延は重大な違反です。

2. 詳細報告書作成

事故の詳細、原因分析、再発防止策を含めた報告書を作成します。単なる事実の報告ではなく、分析と改善策が求められます。

3. 社内検討と対策実施

事故原因の究明、再発防止策の立案と実施を行い、その状況を記録保管します。同様の事故の再発を防ぐことが最優先です。

乗務員の勤務管理

運行管理者の最も重要な責務の一つが、乗務員の勤務管理です。法定労働時間を遵守し、過労運転を防ぐことは、事故防止と乗客の安全確保の基本です。

法定労働時間の遵守

貸切バスの乗務員には、以下の勤務時間制限が適用されます:

  • 1日の勤務時間:13時間以内(拘束時間)
  • 1日の運転時間:9時間以内(4時間ごとに30分の休息)
  • 勤務間隔:11時間以上の休息(継続的な8時間を含む)
  • 月間運転時間:200時間以内

注意点

これらの制限は法定最低基準です。超過すると労働基準法違反となり、運行管理者にも責任が及びます。特に繁忙期は注意が必要です。

勤務割作成時のポイント

  • 運行スケジュール全体の把握と最適化
  • 乗務員の健康状態や疲労度を考慮
  • 定期的な見直しと改善
  • 乗務員からの報告や要望への対応

資格要件と注意点

運行管理者になるためには、定められた資格要件を満たし、国土交通大臣から選任される必要があります。

運行管理者の資格要件

  • 運行管理者試験に合格していること
  • 過去5年間に重大事故や法令違反がないこと
  • 十分な実務経験を有すること
  • 人的・物的・金銭的に信用性があること

法令違反時の責任

重要:個人責任について

運行管理者が職務を怠ったり、法令に違反した場合、以下のペナルティを受ける可能性があります:

  • • 選任取消(運行管理者としての地位喪失)
  • • 事業者への行政処分(監査、警告、事業停止)
  • • 刑事処分(悪質な場合)
  • • 民事上の損賠請求

継続的な研修と自己啓発

運行管理者は、定期的に法令改正やバス業界の最新動向について学ぶ必要があります。当初の研修後も、継続的な自己啓発が求められる職務です。

  • 全国バス協会などが提供する研修への参加
  • 運輸局から発表される通知や指導への対応
  • 事故事例からの学習と改善策の策定

まとめ

運行管理者は、貸切バス事業における安全運行の最前線に立つ重要な職務です。単なる事務作業ではなく、乗務員の勤務管理、安全指導、事故防止など、多岐にわたる実践的な業務を遂行する必要があります。

運輸規則第48条で定められた業務を適切に実行し、法定基準を遵守することは、乗客の安全確保と事業の持続可能性を実現するための基本です。法令違反や怠慢は、運行管理者本人にも大きな責任と制裁をもたらします。

運行管理者としての職務を全うするためには、継続的な学習、チェックリストの活用、定期的な業務の見直しが欠かせません。バス業界は人命に関わる事業です。その重要性を認識し、真摯に職務に取り組むことが求められます。

お問い合わせ

運送事業に関するご相談は、まずはお気軽にお問い合わせください。
初回相談は無料で承っております。(お電話または対面で1時間以内。要予約)

お問い合わせフォームを開く

※ 別ウィンドウで開きます